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[2011/2/5] 将棋ホラ~ 『賭け将棋』

今晩は・・・。
パーソナリティーの徳川埋蔵ですのじゃ。SCMと虚実の狭間。身も凍る凶歩の世界へようこそ・・・

ふぉっふぉっふぉ。

今宵の作品も超大作となっとります。時間を見つけてじっくり狭間の世海へ身をゆだねましょうぅ~…。納涼・真夏の恐怖怪談はじまりはじまり・・・

[R-18] この作品は過激な表現が含まれとりますので、18歳未満の方は絶対に閲覧をご遠慮くだしゃい。また心臓の悪い方は、読むのをお控えくだしゃいね…

※この物語はフィクションじゃ。実際の場所・内容・人物・会社などとは無関係ですのじゃぁ。

将棋ホラー
投稿作品#009
投稿者:全駒の竜さん

Title:
『賭け将棋』


「よっしゃ!」
食堂にいつもの声が響いた。

「これで次のパンはオレのもんだな、くくくっ」

坊主頭の男たちが将棋盤を囲んでいるなか、ニヤニヤとしているこの男は、正男。
3年前にこの刑務所に落ちてきて将棋を覚えた。無類の賭け将棋好きで、月に何度か食事で出る甘いものやパン、日々のおかずをこのように賭けては一喜一憂している。
覚えたては、まったく勝てずに飯が食えない日々が続いたが、将棋をやめることはなかった。シャバでは触ったこともない将棋にはまってしまった典型的受刑者だ。

「まあここには、ほかに娯楽がないからな」、刑務所一、将棋が強いと言われているベテラン老受刑者はいう。



正男はごきげんだった。
この間、目の前に座ってうなだれているこの男に祝日に出るチョコレートを賭けて負けていたからだった。

(借りは取り返したぜ・・)
「じゃあよろしくな」
ポンッ!と、うなだれている男の肩を叩いて正男は席を立った。

口笛でも吹きたい気分だったが、おやじ(刑務官)がこっちを見ていたのでやめた。
(口笛くらいで懲罰くらたくねぇからな)
もちろん賭け将棋なんていうのも、もってのほか懲罰対象なのだがそっちにはおかまい無しの正男であった。

ふっと、食堂のテレビに目をやるとその脇に見慣れない顔を見つけた。
(あんな奴、この工場にいたか? )
正男は不思議に思った。
新入りが来たらおやじが紹介するのが普通だったからだ。
だがそんなことよりも、
その初めて見る男の放つ空気感に異様なものを感じて正男は怪訝な顔をした。

次にその男の前に将棋盤と駒がセットされていることに気付いた。

ぱっと、正男の顔色が変わる。
(おっ、将棋やるのか?)
まわりを見回しても相手の人間はいなさそうだった。というよりも誰もその男の存在に気付かないように見えた。

しかし将棋盤に気付いた途端、正男のスイッチは将棋モードに入り その男の異様さも、まわりの人間の様子も、もはや関係無くなっていた。

次の瞬間には、その異様な男の前に座って対局を申し込んでいた。

「・・・なに賭けます?」
直接、頭の中に響くような声だった。しかし正男は気にせず、
「じゃあ今度のパンとイチゴジャムはどうだい?」
明るく答えた。
「・・・それだけでいいんですか?」
質問の意味が分からずにいると、
「・・・これから先に出るパン、わたしに勝ったら全部あげますよ」
「全部?ほんとに?」
(こいつ、かなりやるのか?、・・・それともはったりか?)
正男は3年間でかなり棋力をあげていた。自信があった。
(あのじいさん受刑者には勝てねぇけど、こんな新入に負けられねえ)
「よし!いいだろう オレもこの先全部のパン賭けるぜ」


対局が始まった。
いつもならまわりに外野が集まってきては、ああでもないこうでもないと盛り上がるのだが、誰も近付いてくる気配はなかった。

静かに対局は進む。
先手を取った異様な男は、飛車先をどんどんと突いて来る。
(棒銀か?)
正男は角道を開けた。
お構い無しに歩を突いて来る男。
(将棋やったことあんのかよ)
歩を取って正男は思った。思ったとおり、その男はまったくの素人だった。
正男の圧勝、というよりもわざとやってるんじゃないかと疑いたくなるような対局だった。

「・・・まいりました」
あの声で男は言った。正男はなんだか悪いような気がして、
「さっきの賭けだけど、やっぱいいぜ」
「いいえ、約束ですから・・・」
「でもよ・・・」
〜キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜
正男が言いかけたところで昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「この話はまた後でな」

言って、正男は作業をする工場に戻った。



――しかしその後、あの異様な男が正男の前に現れることは無かった。

誰に聞いても、そんな奴知らないという答えしか帰ってこない。
どんな奴だった?、聞いてきた仲間に、答えられない正男がいた。
どんなに考えても、顔がまったく思い出せないのだ。
(・・・顔なんて最初から無かったんじゃないか!?)

怖くなって正男はひとり身震いした。


数日後、受刑者が楽しみなパンの日。
賭けで勝ったパンがおやじに見つからないようにテーブルの下からまわってきた。
チョコレートの男の分だ。嬉しそうに食べている正男に、もうひとつパンがまわってきた。

(誰からだ?)

テーブルの下からで、誰が渡してきたのか分からない。おやじが見ているので確認も出来ない。
戸惑っていると、




「約束ですから」


あの声が正男の頭に響いた・・・
瞬間、正男はその場に倒れた。
正男は医務に運ばれた。それが正男を見た最後だった。


それからしばらくして、老受刑者は、過去に賭け将棋でいじめにあい、食事も食べられずに自殺した受刑者がいたことを語った・・・。

「いいかい、もし顔が無い受刑者を食堂で見つけても将棋の対局を申し込むんじゃない・・・ぜったいじゃぞ

 
ぜったいじゃぞぅ~!!!!
きゃあああぁぁぁ!!!!
恐ろすぃいいい!!

今宵もホラー投稿で楽しませていただきました・・・ありがとうございます。

ふぉっふぉっふぉ。

さて、
惰性で続いているSCDMですが、将棋にまつわる『怖い話・不思議な話・都市伝説』はまだまだ募集しております。

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